京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「──と、いう訳ですので藤本君とは何でもありません。たまたま会ったから挨拶をしただけですし、これからは旅館のご迷惑にならないよう、細心の注意を払いますので」
にこりと告げると、朔埜ははっと意識を戻し、真顔のまま頷いた。
「そういう事なら、分かった。──けど……会いたいとは、思わへんのか?」
その言葉に史織はぱちくりと目を瞬かせた。
勿論いつか会えたらと思っている。
けれどそれは現実味のない「いつか」で、それに肯定するのは何だか夢見がちな気がするのだが……
いや、それを言うなら、通りすがりの人物に心酔している時点で、史織が怪しい言動の持ち主だと不審がられていてもおかしくないか。
そう結論付け史織は首を横に振った。
「いえ、流石にそこまでは……」
思ってないと続ける前に、朔埜の表情が常に戻った。
「……ふうん」
そうして懐手をして何かを考え込むように黙りこくる。