京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
「──必要に応じて声を掛ける。お前は待機や」
「……え」
そんな歯痒い思いを見透かしたらしい言葉に、史織ははっと顔を上げた。
朔埜は眉間に皺を寄せて頑なな様子で視線を逸らしているけれど。これは、
(もしかして……照れているのかしら)
今迄見過ごしていた朔埜の表情に新鮮な思いが芽生える。それと同時に込み上げる温かい思いを胸で押さえ、史織はにっこりと笑顔で答えた。
「畏まりました、若旦那様」
「っ、……ああ。それじゃな」
はっと息を飲み、朔埜は慌てて踵を返して行った。
その背中を見送りながら史織は呟く。
「メモに、書かなきゃ」
調査メモへの追記。
──優しくて、照れ屋。