京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
3. 忘れかけていた動機
それから五日、史織は朔埜を見かけてはメモに残していった。新たな発見をしては嬉しくなる。
例えばおじいちゃん子。
ちらりと見た四ノ宮の現当主は、灰色の髪を角刈りにした快活な雰囲気の人だ。そんな祖父に揶揄われている朔埜は照れているのか、口元をむすりと引き結んでいた。
でも祖父を見る目は優しい。
(愛情の表現が子供みたい……)
ふふ、と笑みを溢しメモ帳に書き連ねる。
朔埜の調査メモは日に日にページ数を増やしていく。
にたにたしながら歩いていたせいか、前方不注意で油断していた。
「西野、さん?」
掛けられた声に史織ははっと息を飲んだ。
「藤本君」
慌てて辺りを見回して周囲を探る。仕事以外で話し込む事は、旅館の者だけでなく、お客様にもどう写るか分からない。先日朔埜に連れ去られた後、三芳からきっちりと注意を受けた。
公私混同ダメ絶対。
史織は困った顔で藤本に笑いかけた。
「あのね、仕事中に声を掛けられるのは、困るんだ」
「──うん、ごめん分かってる。だからさ、仕事上がりに少しでいいから時間を貰えないかな? 話したいっていうか、相談したい事があるんだ」