京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 ……それは、何だろう?
 史織が首を傾げていると、藤本も困り顔で笑う。
「その、西野さんを見かけてつい懐かしくなっちゃって。まだ社会人二年目ってのにもう学生時代を懐かしむのも早い気がするけど……実は研修中に同期が退職するって話になってさ。なんていうかモチベーションが下がっちゃったんだ。気分転換ていうか、誰かと話したくて……どうだろう? 西野さんの話も聞くよ?」

「え、と……」
 そういえば藤本の会社の研修は明日で終わりだった。できれば期間が終了するまで会いたく無かったのが本音だが、藤本は史織の頼みを聞いて西野と呼ぶように努めてくれている。なら少しくらい藤本に付き合ってもいいだろうと判断する。
 史織はこくりと頷いた。

「少しなら……」
 そう言うと藤本は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「研修は十八時までなんだ、西野さんは?」
「その、今日は十七時までだけど、明日早いのと、私も研修中なので消灯が二十一時と決まってるの」
 そう言うと藤本は驚いたような顔をした後、じゃあと顎に手を添え考え込む。
「研修中に離れを一室貸し切ってるんだ。そこで話そうか」
「えっ」
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