京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
その言葉に史織は両手を胸の前で組んだ。
それはもしかして、凛嶺旅館の憧れの特室の事だろうか? 史織の期待に満ちた顔に藤本がにっこりと笑いかける。
「じゃあそこで、十九時でいいかな」
「う、うん。分かった」
こくこくと頷く史織に満足そうに目を細め、そっとその頭を撫でる。びくっと肩が震え思わず藤本の顔を凝視した。
「あとでね」
「あ、うん……」
軽く手を振り、背中を見せる藤本を見送りながら。史織は自身の頭に触れ、違和感に身体を震わせる。
(何だろ?)
十月中頃から始まった仲居業も二週間が過ぎた。だからだろうか、急に感じた京都の冷え込みを払うように、史織は自身の肩を摩った。