スノー&ドロップス
「なーんかワケアリな感じやな? ここは雪に任せて、ウチについてき。んじゃ、支払いよろしくな〜」

「えっ、なんでそうなる? ちょっと、姉貴!」

 有無を言わさずという感じで、強引に連れ出され、電車に乗った。
 駅へ着くまで走っている感覚はなくて、風に乗って移動しているみたいだった。

 ほんの数分足らずでここまで来れたのは、神のみわざと言っても過言でない。あの距離を全速力で急いだとしても、普通でいけば十五分以上はかかっただろう。

 隣り合わせに座り、揺られる。このまま順調に進めば、ギリギリ間に合うかもしれない。

「藤春くんを置き去りにしてしまって、申し訳ないです。明日、謝らないと」

 心残りなのは、お礼も言えずに去ってしまったこと。ワンピースを選ぶ勇気をもらい、ハーブティーの味も教えてくれた。友達と過ごす楽しさを知れたのは、藤春くんのおかげだから。


「茉礼ちゃんってさ、大切な人おる?」


 胸の中に小さな波が現れる。
 鶯くんの顔が浮かんで、水面を揺らめいて。


「……はい」

 あの頃の鶯くんは、ずっと私のヒーローだった。たった一人の味方で、カッコよくて憧れの人。

「失ったときのこと考えると、怖いよなぁ」

「……はい」

 優しかった鶯くんの姿が、大波に飲み込まれていく。
 今でも、鶯くんが大切なことに変わりはない。嫌われたくないし、私のことを必要としてほしい。

 でもーー。
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