スノー&ドロップス
「うちもや。雪のことなにかと心配でさ。今日も尾行したりして、ごめんな。こう見えても、あの子の姉やから。しがらみから解放してあげたいんよ。普通の恋愛もさせてあげたいしな」

 月さんの表情を見て、これが姉としての顔なのだと悟った。
 鶯くんだけじゃない。私には、友達としてそばにいてくれる藤春くんがいる。

「茉礼ちゃんなら、叶えてくれるかもしれんって思ったわ」

 垂れ下がってきた前髪に、月さんの指先が触れた。
 温かかった。藤春くんと違って、この人には体温が感じられる。姉弟なのに、どうして。

 喉の寸前まで上がって来る言葉を、緊張、唾と一緒に飲み込んで言えなくなる。

 雪女の末裔って、呪いって、事実なんですか?
 しがらみとは、そのことを指すのですか?

「これからも、雪と仲良くしてやって」

「……はい」

 結局聞けないまま、胸へ落ちた言葉を殺した。


 いつか、藤春くんも私の前からいなくなってしまうのーー?


 空気の抜けたような音を立てて、電車は停車状態になる。開いたドアの前に立った時、月さんが思い出したようにつぶいた。

「そういえば、茉礼ちゃんの苗字。確か青砥、やったか」

「……はい」


「じゃあ、青砥鶯祐はキミの兄か?」

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