スノー&ドロップス
 赤くなった手首を掴みながら、彼は私の顔に影を落とす。割れものを扱うように触れたあと、唇を(ついば)み、()らう。

 ぞくっとした、不気味な震えが湧き上がって来る。怖いけど、嫌なわけじゃない。
 抵抗しようものなら、何をされるか分からないから。争わない方がいいのだと、自分の胸に言い聞かせて。

「泣いてるの?」

 ようやく、頬を伝う生暖かい筋に気付いた。涙腺から溢れ出る感情は、さっき殺したはずなのに。刺しても、刺しても、死なない。


「……痛いから。胸が、苦しくて、息ができないほど痛いから」

 もう少しだけ声を聴いていたかった。外へ出たい。学校へ行きたい。もう一度、あの笑顔に会いたい。

 ぐるぐると動きまわる寄生虫は、今まで知り得なかった欲望と抵抗から生まれたものだ。
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