スノー&ドロップス
 バスを降りたところで、すでに人だかりができてきた。昔の記憶よりも、ずっと人口密度が高く感じる。

 手を繋いでいると、あの時を思い出す。泣きじゃくった帰り道は、鶯くんがずっと手を握ってくれていた。もう迷子にならないようにと。
 高校生になった今では、純粋な意味合いではなくなってしまったけれど。

 賑わう屋台を歩きながら、辺りをキョロキョロと見渡す。わたあめにベビーカステラ、チョコバナナと焼きそば。どれも食欲を誘うものばかりで、体がうずうずする。

「なにか食べる? 花火までまだ時間あるから」

 巾着袋を握りしめて、ゆっくり首を振った。
 まだ今はいい。いつその時が来るか予測できないから、両手が塞がっていては困る。

 それにしても、すごい人の量だ。見渡す限り人、人、人でーー酔ってしまいそう。

「あの石のところで、少し座ってもいい?」

「気分悪い? なにか飲み物買ってくるから、休んでて」

 階段の前にある石垣に私を残して、「すぐ戻るから」と鶯くんは走って行く。あっという間に、その後ろ姿は人の波に呑み込まれて、消えてしまった。

「……ごめんなさい」

 のそりと腰を上げ、神社へ続く階段を上っていく。下駄では、一歩一歩の道のりが長く感じた。振り向きながら、まだ鶯くんがいないことを確認して、私は上へと急ぐ。

 鳥居をくぐり、境内のまわりの人影を探した。あと五分で十八時半。待ち合わせの時間だ。
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