スノー&ドロップス
「青砥さん」

 御神木(ごしんぼく)の向こうから、白髪をひとつに結った人が歩いてきた。

「藤春くん」

 本当に会えた。
 グレーの浴衣が、よりまぶしさを演出している。手を引かれ、私たちはさらに奥へと進んでいく。まるで、人の影に隠れるように。

 木を通り抜け、たどり着いた神社の裏側はほとんど人がいない。ここでは花火が見えないから、訪れる人は自然と避けていくのだ。

 繋いでいた手を、そっと離す。夏の空気と似合わない冷んやりした感触は、どうしてもさっきまでと比べてしまう。

「浴衣だとは思わなかった。その柄、変わってるね」
「お母さんのお下がりなんです。ちょっと、古臭いでしょ」

 あまりマジマジと見られると、慣れていないから気恥ずかしい。後れ髪を耳にかけながら、目線が下がっていく。

「落ち着いてて大人っぽい。青砥さんによく似合ってる。髪もいつもと違うね。すごく、可愛いよ」

 屋台のリンゴ飴のように頬が染まる。薄暗くてよかったと思いつつ、巾着袋から小さな布袋を取り出した。

「そうだ、……これ」

 紺色の布袋を差し出すと、藤春くんが不思議そうに受け取る。

「なに?」

「魔除けの御守りです。パワーストーンというもので、作ってみました」

「え、青砥さんの手作り?」

 大げさなくらいの驚きように、少し身長が縮まった。
 ゼロから何かをしたことも、誰かのために物を作ったことも初めてで、不恰好なのは否めない。
< 153 / 203 >

この作品をシェア

pagetop