スノー&ドロップス
 突然、腕を引かれて呼び止められる。振り向く間もなく、手繰り寄せられ近づいた耳元から。

「俺、青砥さんのことが好きなんだ」

 少女漫画でしか聞いたことのないセリフが、現実に降ってきた。

「えっ、ええっ⁉︎ あ、あの……えっと」

 ない語学力が、さらになくなる。
 好きになってとお願いはされたけど、その藤春くんから告白されるとは想定外すぎる。

 後ろから肩を抱き寄せられている状況も、頭の中が真っ白になりそうだ。
 そのままでいいから聞いてほしいと、藤春くんは続けて。

「こんなに誰かに惹かれたの、初めてで、どう言ったらいいか難しいけど。青砥さんのこと、もっと知りたい。笑ってる顔も見たいし、一緒にいたい」

 胸の奥がキュッと狭くなって、ドキドキしている。

 地味だと嘲笑(あざわら)われて、汚いと(けな)されていた私が、誰かに好かれる日が来るなんて。今まで夢にも思わなかった。

 肩へ巻き付く手をそっと掴み、まぶたを閉じる。

 この涙の意味が、やっとわかった。
 私は、藤春くんのことが好きなんだ。これほど愛おしいと思い、離れたくないと心が叫ぶ。


 だから、この気持ちは押し殺さなければならない。


「わ、私は……やっぱり、鶯くんを裏切ることは、できません」
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