スノー&ドロップス
「……雪は関係ないやろ! 全部、ウチが勝手にしたことで」

「藤春さん、連帯責任って知ってる? 信頼ってそうゆうとこから失うんだ。じゃないと僕は納得できない」

 冷血無情な表情も、この時ばかりは腑に落ちた。俺が彼の立場なら、似たことを言っただろう。
 笑っていてほしいのに、俺では君を涙にしてしまう。いつか心まで氷になりそうで、この手で触れることすら怖い。

 守るどころか、闇へと連れ去ろうとしているのは、ーー俺の方なのかもしれない。

「……わかった、誓うよ。青砥さんとは関わらない。連絡も取らない。友達は……解消だ」

「ーーゆきっ!」

 唇を噛み締めながら、姉が地面へ崩れ落ちた。ダメだと繰り返している。
 これほど心配されていたとは、知らなかった。普段はそうゆうところを見せないから。

 そういえば、小さい頃はよく俺のことを庇って怪我をしていた。木から降りれなくなった時も、迷子になって泣いていた時も、姉は一番に駆けつけてくれた。昔からこうゆう人だったこと、成長して忘れていた気がする。

 床にひざをつけたまま、姉が頭を下げた。まるで土下座をしているかの格好に、場の空気が変わった。憂を帯びた顔で青砥さんが、声をかけようとした時。

「ひとつ、頼みがある。これは藤春家……雪女の末裔の姉として、青砥兄妹(きょうだい)に最初で最後のお願いや」

 顔を上げた姉は、一段とキリッとしていた。覚悟を決めた人間とは、こう映るものなのか。


「茉礼ちゃん。弟の髪を切ってください」

 静寂とした倉庫に、思いもよらない爆弾が放たれた。
< 168 / 203 >

この作品をシェア

pagetop