スノー&ドロップス
 雪女の末裔にとって、髪はとても大切な象徴だ。長ければ長いほど良いとされ、生命力に繋がるものだと古くから崇められている。

 ある一定の長さになると伸びなくなり、姉も俺も髪を一度も切ったことがない。その反動で、母は美容師になったと聞いている。

 倉庫事件から、一週間が経った。学校から帰宅した午後五時に、店の看板をクローズに変える。いつもより二時間早い終業は、俺のためだ。
 青砥兄が同席する条件で、断髪の許可が下りたのだ。

「さーて、ウチは上へ退散しとるから、茉礼ちゃん来たら切ってもらいな」

 髪切りハサミの置かれたトレーを置いて、姉が出て行こうとしている。

「姉貴はそれでいいの?」

「会いたくないやろ」

 じゃ、とそそくさと二階へ上がってしまった。
 後悔のオーラが家全体に漂っている。姉なりに反省して、気を遣っているらしい。

 時間差でやって来た青砥さんが、店のドアを開けた。ぎこちない挨拶をして、少しの沈黙が流れる。

「……お兄さん、いつ来るって?」

 約束の時間になっても、青砥兄が来る気配はない。

「それが、委員会の仕事が急遽入ってしまったようで、遅くなりそうだと」

 スマホを確認しながら、青砥さんがつぶやく。そうしているうち、俺のスマホが鳴って、姉からのメッセージが届いた。
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