スノー&ドロップス
 ドクン、と心臓が跳ねる。変な汗が湧いてきて、歩幅が狭くなる。
 藤春くんはいつも通りの表情で、特に慌てる様子もない。

「このあたり雪女の出身地なの?」

「おそらく。雪女って実際にいるんだぞ。俺、オカルト部だからいろいろ知ってるんだ。まだ末裔が残ってるって噂だぞ」

「へぇー、初めて聞いた」

 盛り上がる二人へさらに近づき、聞き耳を立てる。どんな発言が飛び出してくるのか、冷や冷やしていると。

「気に入った人間のこと、氷にしてバリバリ喰うらしいぞ」

「うげ、グロすぎる」

 パリンと、心の中で何か割れた音がする。


 ーー茉礼を生贄(いけにえ)にするつもりだ。

 鶯くんの言葉は虚言でなかったとショックを受けたのか、藤春くんの横顔がとても寂しそうに見えたからなのか。

「そんなの迷信でしょー? 雪女とか作り話じゃん。河童や口裂け女と同じ。ね、雪ちゃん?」

 三嶋さんが振り向いて、二人の会話に割り入った。同意を求めるように隣を向くけど、藤春くんは黙っている。
 気まずい雰囲気が流れ出して、みんなが思い出したように口を開く。

「そういえば、藤春くん……いきなり碧くなったって言ってたよね、目」

 松川さんの言葉に続けて、杉山くんも探るような口調で言う。

「髪の毛もすっげぇ白いな。それ、地毛なんだっけ」

 どうしよう。二人とも、なにか勘ぐる様子で藤春くんを見ている。まるで尋問だ。
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