スノー&ドロップス
「は? なに言い出す」
「あっ、ああ……ああ……」

 三嶋さんが何か話そうとしていたけど、気づいたら唸っていた。その場でうずくまり、ウーウーと発する。

「えっ、なんなの? 怖いんだけど」

 歩道の隅で動かない私を囲んで、みんなが騒ぎ始めた。

「お、お腹……痛い」

 息をするように嘘を吐く。私の得意分野。

「えー? こんなとこで? 昼なに食ったの?」

 とりあえず休憩しようと、近くにあったバス停のベンチへ座ることになった。さっきまでの張り詰めた空気は消えて、みんないつも通りだ。よかったと、胸を撫で下ろす。
 なにか言いたそうな藤春くんと目が合うけど、お互いに顔を背けた。

 そばにいられなくてもいいから、あなたには笑っていてほしい。


 買い出しを終えて帰宅する頃には、くたくたに疲れていた。集団行動が苦手なのも大いに関係しているけど、藤春くんを見ると精神的にくるものがある。

 数ヶ月前までは、話さなくても苦じゃなかった。なのに今は、話せないことがつらい。

「あ、茉礼ちょうどいいところに来た。ご飯だから鶯祐呼んできて」

 二階から下りて行くと、エプロンをしたお母さんがテーブルに夕食を並べているところだった。返事をするタイミングが少し遅れる。鶯くんと二人になりたくないと、考えてしまったから。

「最近、勉強教えてもらってるの? 喧嘩でもした?」

「……ううん、大丈夫」
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