スノー&ドロップス
「少し休めた方がよさそうだね」

「……うん、ありがとう」

 なぜか、藤春くんも隣に腰を下ろす。一人で置いて行くには、心苦しいのかな。藤春くんは、前からそうゆう優しい人だった。

「元気だった?」

 静かな青空の下に、白い息が広がる。数ヶ月ぶりの会話に、目頭がじわりと滲む。

「……それなりです。藤春くんは?」

「特に、変わりないよ」

「よかったです」

 ぎこちない空気が、冷たい風と流れていく。手を擦り合わせたりして、そわそわが止まらない。

「同じクラスなのに、変な会話」

「たしかに」

 お互いからクスクスと笑う声がこぼれて、目を合わせた。この感じ、すごく懐かしい。

「学校から近いわけでもないのに、こんなところで会うとか、すごい偶然だよね」

「ほんと、びっくりしました」

「なんか……運命感じちゃうなーーって」

 ボソリと聞こえた言葉が、頭の中でリピートされる。

「……え?」

「あ、いや、なんでもない。今の忘れて」

 ほんのり赤らんだ白い頬を、藤春くんが隠す。反対を向いた耳まで、霜焼けのように真っ赤だ。
 女の子慣れしている藤春くんがこんな反応をするなんて、可愛らしい。もっと近づきたい。

 けれど、これ以上はいけないと、触れそうで触れない距離の手を膝の上へ引いた。チラリと見える手首の痕跡を、コートの袖へ埋めて。

 突拍子もなく、ヒヤッとする。俯いて垂れていた前髪が耳へかけられ、露わになった頬に親指が触れていた。

「こんなとこ擦りむいてる。血が」

 撫でるように拭われる肌が、氷によって熱を帯びていく。
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