スノー&ドロップス
 重みがなくなって、凹んだ布団が元通りになっていく。

 ……え? おもむろに布団から起き上がると、すでに鶯くんの姿はなかった。ドアは開いたままで、階段を上がる音がする。

「鶯くん?」

 さっきの言葉の意味を考えてみるけど、答えは見つからない。

 コンコンとノックが響いて、開いたドアから顔がのぞいた。白い髪がチラリと見えて、ドクンと心臓が揺れる。

「藤春……くん?」

「久しぶり」

 なぜ彼がここにいるのか。理解できるほど、まだ頭は回らない。気まずそうにしながら、藤春くんが部屋の中へ入ってきた。

 乱れたボサボサの髪を手ぐしで整えて、ベッドの上で正座する。よりによって、こんなコンディションの時に会いたくなかった。

「ずっと休んでるのって、俺のせい?」

「え、えっと……」

 突き放すような目。できれば関わりたくないという顔をしてる。そんな気がする。

「来てくれって連絡があったんだ。姉伝えに」

「……誰、から?」


「もっと早く、こうするべきだったのかもしれない。茉礼を失う前に」

 ドアの向こうから、鶯くんが姿を現した。深く真っ黒な目が、さらに堕ちていく。まるで、悪魔に取り憑かれたみたいだ。

 ゆらりと迫ってくる鶯くんから、少し離れて後退する。

「鶯……くん?」

「アンタ、なにして……」
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