スノー&ドロップス
「鶯祐、なんでこんなことになったの⁉︎」

 勢いよく肩を掴まれて、ゆさゆさと揺さぶられる。視界がぐらつき、あわあわと狼狽えていると、ポツンと頬に雨が降って来た。それは大粒の嵐になって、掠れた泣き声が混ざり合う。

「こんな美人に好かれてるって言うのにさ。振り向きもしないんだから。バカだよ、鶯祐は。死なないでよ……、ぜったい!」

 その人は、うわーんと声を上げながら、鶯くんのベッドに崩れ落ちた。

 人が取り乱していると、意外と冷静になれるものらしい。干からびるほどに泣いていた私が、彼女の気迫に負けて今は涙がひっこんでいる。

「……必ず、大丈夫です。鶯くんは、勝ちます」

 根拠もなにもないけど、戻って来てくれると信じている。

「目覚ましたら、また来るって伝えてくれる?」

 それだけ言い残して、彼女は去って行った。名前を聞きそびれてしまった。家に来た人だと伝えたら、わかるだろうか。

 袖からのぞく手首には、なにもない。とっくに消えている鶯くんの跡を掴み、怖くなる。

 この世に絶対など存在しないことくらい、よく知っているつもりだから。
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