スノー&ドロップス
「……やだ、藤春くん。目覚まして。いなくならないで。好き……あなたが、好きなんです」

 手を組んで横たわる藤春くんに駆け寄り、手を握る。氷のように硬く、首や頬には亀裂が広がっていた。
 タートルネックを着ていたのは、この模様を隠すためだったんだ。

 どうして気づかなかったのだろう。気づこうとしなかったんだろう。いつもまっすぐな藤春くんが、私のためについていた嘘に。


「なんでもする。助けられるなら、私をあげるから……お願い……お願いします」

 あふれる涙は止まることなく、しがみ付く白い衣装を濡らしていく。

「……もう、手遅れや」

 後ろから月さんの声がした。
 自分でもわかっている。人形のように硬くなった体に、陶器のような顔。白くて長いまつ毛も、全てが作り物に見える。

 藤春くんがすでに息をしていないことくらい、言われなくても一番近くにいる私がよくわかっている。

 だけど、諦められなかった。見届けて終わりにしたくなかった。まだ私は、何も返せていない。

 動かない藤春くんの頬を触り、置き物のような顔にそっと近づく。重ねた唇は無言のまま、涙の跡が染み込む。

 失ってからでは遅い。取り戻すことはできない。

 冷たい胸元で泣いていたら、ぽわんと光っていることに気づいた。塵が折り重なった輝きは、透明になりかけている彼の体を覆っている。


「なんということじゃ……」
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