スノー&ドロップス
 玄関先で小さく手を振る茉礼に見送られ、家に鍵を掛けた。

 何かを遮断(しゃだん)するようなこの(にぶ)い音が好きだ。彼女を僕の世界に閉じ込める音。

 毎週土曜日は、駅前の塾へ通っている。

 濡れた歩道を歩きながら、傘に降る雨の音をイヤホンで(ふさ)いで。この音で嫌な事を思い出した。長い溜息がひとつ、落ちる。

 ーー土砂降りの雨、涙で溢れた顔、離れる指先。

 その記憶を掻き消すように、古びたビルの前で傘についた雨粒を吹き飛ばす。一段と強くなっている。


 腕時計を見ながら、昨夜の茉礼が脳裏に蘇った。あの空気は明らかにいつもと違うものだった。

 夕食後、いつも僕の部屋でしている勉強。問題を見る茉礼の目が泳いでいた。小さな吐息をよく吐いて、瞬きも若干多い。

「ちょっと休憩しようか」

「ごめん、まだ大丈夫だよ。ちゃんと出来るから」

「無理しなくていいよ」

「ほんとに……疲れてないから」

 シフォンケーキを掴むみたいな指先で頭に触れると、茉礼は(まぶた)をビクつかせた。

 僕に何か隠していると、すぐに分かった。
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