スノー&ドロップス
 指差す方向には、一畳ほどのクローゼット。

 一段ずつ階段を上がる足音。鶯くんが私の名を呼ぶ声が聞こえて来る。考えている余裕はない。

 部屋の前で音は止まり、ノックが鳴った。

「茉礼、まだ寝てる? 熱大丈夫か?」

 ゆっくりと開けられたドアの先に、私たちの姿はない。

 とっさに隠れた暗闇の中から、鶯くんが出て行く音を確認して、ほっと胸を撫で下ろした。なんとか誤魔化せたらしい。


「……青砥さん」

 思わず押し込んでしまったけど、藤春さんは大丈夫……あれ?

 ここでようやく、体の違和感に気付く。前のめりになって、彼女へ覆い被さるように抱きついていた。なりふり構わず、狭い収納スペースへ無理やり入り込んだから。

「……ごめっ」

 体勢を整えようとして、自由を制限された手足はバランスを崩した。私の顔面は、見事に目の前の胸へと倒れ込む。

 ど、ど、どうしよう。とんでもない無礼を……。思いながら、ふと疑問が過ぎる。

 あれ? なにかがおかしい。女子ならではの柔らかさがないというか、膨らみが全く感じられない。

 それに、なにやら(ひざ)に不思議な感触がある。もしかして、これって……。
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