スノー&ドロップス
 おどおどしていると、鶯くんが私の肩を軽く引き寄せた。

茉礼(まれ)に何か用ですか?」

 いつもより更に低い声だ。

 彼女は、なんと答えるんだろう。
 手のひらの汗が、じわりとにじみ出てくる。

「あっ、えっと、これ、電車に忘れてたので。明日学校で渡せばいいかなって思ったんだけど、ないと困るかなって」

 はいと差し出された可愛げのないシンプルなスマホケースは、確かに私のだ。

 ちゃんとスカートのポケットに入れたはずなのに、いつの間に落としていたんだろう。かと言って連絡する友達はいないから、それほど不便は感じないのだけど。

 でも、スマホを届けるためにわざわざ追いかけて来てくれたなんて、少し驚いた。こんな存在感のない私なんかのために。

「わたしが隣に座ってたの、気付いてなかったでしょ。ずっとスマホ見てたから……」

 出しかけた手を、すばやく引っ込めた。

「ありがとね」

 彼女の言葉を聞き終えるより先に、横から割り入った大きな手がスマホを受け取ったから。

 そのまま鶯くんに手を引かれて、駅を後にした。

 一連の動作が早すぎて、藤春雪がどんな表情をしていたのか分からなかった。ずっとうつむき加減でいたからというのも、大いにあるけど。
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