スノー&ドロップス
「最近ずっと元気ないけど、学校で何かあった?」

 穏やかな声が胸の奥に浸透する。泣いている子どもをあやすみたいに、私を包み込んでくれる。

 ゆっくりと顔を上げると、兎のように赤くなっている目をのぞき込まれた。

「泣いてたのか」

「……学校、行きたくない」

 鼻をすする音が静かな部屋に響く。ぐちゃぐちゃになった目を拭う指が弱音を吐いている。

 鶯くんがそばにいてくれないと、壊れてしまう。

 包帯がしてあった手首。今はもう取れて何もない。歯形はいつの間にか消えていて、あの日の鶯くんも泡沫(うたかた)の夢のように薄れていた。

 目の前にいるのは優しい鶯くんで、辛い高校生活も日を追えばこんな風に色褪(いろあ)せて行くのかな。

「独りぼっちでも平気だったの。自分を誤魔化していれば良かったけど、今は辛い。隠されたり、破られたり、全部が苦しい。あの時より、ずっと」

 小学生の時は、いつも鶯くんがいてくれた。
 中学に入学してからも、一人ぼっちじゃなかった。だから友達なんていなくても良かった。

 そっと背中が引き寄せられ、鶯くんの腕の中にすっぽりと入る。頭上から星空のような言葉が降り(そそ)ぎ、私は目の前にある大きな背中にしがみ付いた。

「一人でよく頑張ったね。僕がそばにいてあげられたら良かったのに」
< 67 / 203 >

この作品をシェア

pagetop