スノー&ドロップス
 本当は分かっていた。鶯くんとの約束が普通じゃないこと。
 それでも私は、彼の糸が切れるのが怖くて、自分に言い聞かせながら過ごしている。これでいいの、と。
 本当の鶯くんは優しい人だと知っているから。

 掴まれていた手がふわっとほどかれ、藤春くんが「ごめん」とつぶやく。何も悪いことをしていないのに。

 せっかく差し伸べてくれた手。握り返さなかったことを、少しだけ後悔しているのかもしれない。


「また明日、一緒に帰ろうよ」

 ただうなずくことしか出来ない私に、優しい言葉の花が咲く。



 ふわふわとした気持ちを終わらせたのは、次の停車が葉歌駅だとアナウンスが流れ始めた時。鶯くんが迎えに来てくれるのは嬉しいけど、嘘を付いている罪悪感に表情が無くなる。

 人のまばらな車両を降りて、不揃いな心音を鳴らしながら、線路を渡り反対側の入り口へ移動する。学校から帰ったならば、この出口にいる事はあり得ないから。

 風の音すら聞こえない駅の表側には、まだ鶯くんの姿は見当たらなかった。

 眉を開くと、周りの景色が目に飛び込んでくる。淡い緑をした苗色の草、空に向かって咲くわずかに赤みを帯びた黄色い向日葵。青紫の羽根をしなやかに動かす蝶。繊細な線、透明感。

 いつ振りだろう。自分の目で外の色を感じたのは。
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