スノー&ドロップス
 釘付けになっていた視線が途切れたのは、後方から落ち着きのある声が聞こえたから。

「茉礼、早かったね。もう着いてたんだ」

「えっと、途中まで……快速だったから……かな」

 苦し紛れの返事。東雲駅からと学校の最寄り駅からでは、葉歌駅に到着する時間配分が異なり過ぎた。

 今更気付くなんて、安易に嘘を付くからボロが出る。これでとがめられても、身から出た(さび)

「そうなんだ。帰ろうか」

 いつもと変わらない様子で、鶯くんは穏やかに笑っていた。その柔らかな表情に、私の胸はトクンと波打つ。

 肩を並べて歩く距離は、普段より十センチ程遠くて、沈黙の流れる速度が遅く感じる。不意に握られた右手に、跳ね上がるような心臓の音を立てて、私は鶯くんを見れないでいる。

「今日は空が綺麗だね。夕焼け前の色に映えて、違う世界にいるみたいだ」

 明るい空色に混じるピンクのグラデーションが、幻想的で美しい。どこか切なさを誘う景色は、ノスタルジックな気分にさせた。

「眼鏡、どうしてしてないの?」

「……割れ、ちゃって」

「また嫌がらせされたの?」

 目の前に広がる空の色に目を向けたまま、私はゆっくりうなずく。


「じゃあ、ブラウスが違うのもそれが理由?」
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