お砂糖味のキス
帰ろうと言った君は,笑っているのに泣いているようだった。

それに,ケーキと言った? 彼女が出来たお祝い?

でも,そういう感じではない。

それは不安と疑問と共に,安心を私にもたらした。

家に帰るまで,奏詞は一言も話さなかった。

いつもだったら私の隣で,私の目をみて優しく笑ってくれるのに。

今は私の前を歩いている。

ただ,歩くペースを合わせてくれるから,私に怒っているわけでは無さそう。

たんに癖なのかもしれないけど。

だからといって,私も話しかけようとは思わなかった。

それくらいの気遣いは出来るつもりだ。

奏詞の家について,私達は慣れた足取りで奏詞の部屋に向かった。

奏詞の両親はいつも



「ゆっくりしてきぃね」


と,何時に来ようが迎えてくれて,気を使っているのかそれ以上は話しかけてこない。

だから私もそれに合わせて


「ありがとうございます」


とだけ返す。

だからといって淡白な関係であるわけでもなく,単に気を使い合っているだけ。

母に付き合ってお邪魔するときはよく奏詞のお母さんと一緒になってはしゃいだりする。

あだ名で呼ぶし,敬語はほとんど使わない。

つまりただ礼儀を守ってるだけ。
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