お砂糖味のキス
「……? ふふっ意外に気にしてくれてたりするのかなぁ」

でも,古都が僕に向ける感情を思うと,幼子が新しく生まれる子に親をとられたような気持ちになるのと同じかもしれない。

それでも,古都があんな顔をするのは久しぶりだと思う。

古都は昔から,傷ついたり人に知られたくない感情がある時,表情を消す。

そして,僕しか分からないくらい唇に弱く力を込める。

だから,あの一瞬,古都は明らかに動揺していると分かった。

僕はあの子の心を揺らすことが出来たのだ。

古都とバラバラで家に帰るのは何年ぶりだろう。

きっと彼女が体調不良で休んだ時以来だ。

僕たちはどちらかが遅くなる出来事があっても,お互い必ず待っていたから。

せっかくだから,古都に何か甘いものでも買っていってあげよう。

そう思って,僕は賑わう夕方の街に繰り出した。
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