黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
「スッピン」

八重樫君はそう言うと私の肌を突いてきた。

「これも他言無用でお願いします」

「会社の双葉と変わらないから他言しても大丈夫だよ」

「いや、八重樫君が私のスッピンを知っている方が問題でしょ。それに会社に行くときはちゃんと皺とシミとか消してるつもりなんだけど」

「分かんない」

私のスッピンメイクが分かんないとは何たる事!
もっと勉強しなければ。

ってか、ちょっと待って、この状況何? 指一本触れないって約束したよね。

それなのに何故私は八重樫君に抱きつかれているのでしょうか。

「あの、いつ離してくれるの」

とりあえず冷静に大人なフリして聞いてみた。

「もうちょっと」

八重樫君はそう言うと私を更にぎゅっと抱きしめた。
心臓がバクバクと音を立てている。

「指一本でも触れたら追い出すって言ったの覚えてる」

「うん。でも先に触れてきたの双葉の方だから」

え? どういうこと? 

「触れたって、それはたまたま当たったとかだよね?」

「掴んできた」

つ、掴んだ? 一体私は何を掴んだんだ?

「大きいってぎゅっと握られてさ」

大きい? ぎゅっと握った?

いやいやまさか、まさかだよね。手だよね。大きな手ってことだよね。

八重樫君は自分の下半身の方に目を向けた。

寝ている私、何してるんだ!

「っぷ、ははは」

笑ってる。八重樫君が笑っている。

からかわれたんだ。

「俺が掛け布団を掛け直そうとしたら手掴まれておっきいって言われた」

「だからってここで寝る必要ないでしょう」

「いや、あるでしょう」

「無いです。八重樫君は何がしたいの?」

「ん? 楽しいこと」

「私以外の人とやってくれる?」

「ヤダ。俺は双葉で楽しみたい」

私で楽しむ……そうだよね。
私なんて八重樫君からしてみたら単なる時間潰しのおもちゃだ。
抱きつかれてドキドキしているなんて私の心臓よ串刺しにしてやろうか!

いや、そんなことしたら私が死んでしまう。落ち着け私の心臓よ。
君は平穏な日々を過ごすために頑張ってくれたよね。
ほらもう安心して、この男性は単に君で笑いたいだけなんだよ。

ドキドキなんて時間の無駄。

「八重樫君」

(れん)。八重樫蓮」

「八重樫蓮君」

「じゃなくて、蓮って呼んで」

「なんで」

「2人の時は蓮って呼んでくれるなら離してあげる」

「蓮」

「なに?」

離してくれないじゃないですか!

「蓮、離して」

「いいよ。どうした?」

八重樫君は笑いながら離してくれた。

「これ以上、私を弄ばないで。歳は取っていても、恋愛偏差値は低いの。私はもう恋しないって決めてるから」

「それって俺に恋しそうってこと?」
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