黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
星羅ちゃんは振り向き「パパ早く」と言って手招きしている。

乗り遅れた! 私だけ星羅ちゃんの懐に入れていない。

星羅ちゃんは右手に部長、左手に八重樫君とイケメンを引き連れ、後ろに黒子という状態で水族館を楽しんでいた。

それにしても水族館なんて久しぶりだ。
前に来たのは確か……いや、思い出さないでおこう。

私はある水槽の前で立ち止まった。

海月(くらげ)がとても優雅に泳いでいる。
色とりどりのライトで幻想的に照らされ、ここにいる人々の目を掴んで離さない。

こんな風に飾られることがなければ透明で見過ごされてしまう存在なのに、ここに来ると彼らはどんなスター魚よりも注目され、綺麗だと称賛される。

「双葉みたいだね」

耳元で八重樫君の声がした。

さっきまで可愛い女の子とデートしていた八重樫君がいつの間にか私の後ろに立っていた。

「星羅ちゃん達は?」

「トイレだって。部長が連れてった」

そう言うと、八重樫君は何の躊躇もなく私を後ろから抱きしめ私の頭にキスをしてきた。

「部長に見られるから」

「見てもらおうか」

周りから見ればイチャついているカップル。
いや、今日は部長と会うから黒子として来ている。
つまり今はイケメン男子に抱きつかれている黒髪おさげのメガネおばさんだ。

無理です。周りの人の気分を害してしまいます。

「お客さんもいるから」

私は必死に振り切ろうとしていたが、八重樫君は私の手を引いて死角に移動すると私を抱きしめながら熱いキスを交わしてきた。

ここならと私も気持ちが盛り上がってしまう。

1人置き去りにされたからだろうか、八重樫君が私を求めてくれたことが嬉しかったのだ。

「ねぇ、何で海月が私みたいなの?」

私は両手を八重樫君と繋いでぶらぶらさせながら聞いてみた。

「うーん。海月っていつもは気にしないけど飾りつけられると今まで見向きもしなかった人たちが足を止めて目を奪われるじゃん。なんかそれが平日と休日の双葉みたいだなって」

嬉しい。

私は海月のように透明な存在だとしか思ってなかった。だからこんなに注目されている海月が羨ましくもあった。

でも、私は少なくとも八重樫君にとってここにいる海月達のように綺麗だと思われる存在になれているのかもしれない。

「れーん、どこ?」

星羅ちゃんが八重樫君を探しているようだ。
それにしてもこの短時間で蓮呼び。私に最強ライバルが登場したのかもしれない。

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