黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
「部長、酔っているんですか?」

「あぁ、酔っているかもしれないな。私は君といると落ち着くんだ。いつも落ち着いていて、我慢強くて、誰よりも頑張っている君を見ていると……」

部長は私の困ったような顔を見て察してくれたのだろうか。

「仕事がスムーズに進められるように何かできないかって思うんだよ。だからできることがあれば頼ってくれよ」

部長はそう言うとそっと手を離して食事を始めた。

「ありがとうございます」

私がお礼を言うと、部長はにっこりと笑ってシェフにデザートを持ち帰りにして欲しいと頼んでいた。
どうやらシェフとは仲がいいようで特別だと言って持ち帰りにさせてくれた。

時間にして1時間も満たない食事だったが、このレストランの良いとこどりをしたような素敵な食事だった。

「良かったらこれ二条君が持って帰らないか?」

差し出されたのは包んでもらったデザートだった。

「ここはデザートも絶品だから」

「ありがとうございます」

「八重樫君は生きている世界が違う。彼は今普通の社会人だが、アメリカに戻ればその州や業界では言わずと知れた大手企業の御曹司だ」

まさか、八重樫君の真相を部長から聞くことになるとは思ってもいなかった。

「君には辛い思いをさせたくない。今ならまだ間に合うんじゃないのか?」

部長は私の想いに気づいている。

「もう、間に合わないです」

私は笑顔で答えた。

「そうか。八重樫君の事は他の社員には内緒で頼む。今日は悪かったね」

「私の彼への想いも内緒でお願いします」

「ああ、もちろんだ」

部長はそう言って店を後にした。

デザートはちゃんと2つ入っていた。

家に帰るとまだ八重樫君は帰ってきていなかった。
私はデザートを冷蔵庫に入れ、お風呂に入った。
お風呂に入っている間に八重樫君からの着信が何度もあったようだ。

電話をかけ直したが、電車の中なのか切られてしまった。
すると今どこにいるのか尋ねるメッセージが届いた。
私は家だと伝え、デザートの写真を送り、一緒に食べようと伝えたが返信はなかった。

帰ってきた八重樫君は、どことなく不機嫌なような気がした。

「双葉何時頃に帰ってきたの?」

「うーん、9時頃かな」

「食事どうだった?」

「美味しかったよ。いつか蓮と一緒に行ってみたかった人気のレストランだったんだけど、部長の知り合いのお店だったみたいで、また行きたかったら調整してくれるって」

「そんなに良かったんだ」

「うん。今度は蓮と行きたいな」

私は笑顔で答えた。

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