美しき禁断の果実
目を覚ますと薄手のネグリジェに着替えさせられて布団に寝転がっていた。
障子の向こう側に青白い三日月が浮かんでいて、いつの間にか世界に夜が訪れていたのだった。
倦怠感に包まれた私の身体を雪五朗が後ろから抱きしめている。
ぼんやりしているとぐぅーっとお腹が鳴って、夕飯を食べていないことを思い出した。
余計なことに、お腹が空いてしまうほどの行動をしていたことまでも連想してしまい、一人頬を染めた。
いや、そうよね。
新婚だもの、何も悪いことをしたわけじゃないわ。
堂々としていればいいのよ。そう、堂々と……。
言い聞かせる言葉と反対に、私は赤くなった顔を両手で覆った。
雪五朗と一緒の寝室にいる恥ずかしさに耐えられず、私は自らの空腹を言い訳に彼の腕からそっと抜け出そうとする。
だが、起き上がろうとしたそのとき逆方向に身体が引き寄せられる。
くるりと反転した私は、漆黒の目とかち合った。
「なっ、……起きていたのね」
「あぁ」
寝ぼけ眼の雪五朗はどこか愁いを帯びていて艶やかだった。
その色っぽさに呆けているうちに、彼の唇が私の額に当てられる。
所謂でこちゅうという行為である。
暫し無言の時間が続き、布団の下で攻防戦が繰り広げられた。
抜け出したい私と、それを阻止する雪五朗。
彼の指が一瞬の隙をついてネグリジェの中に潜り込もうとするので、その度に私はその手を叩いた。
本気を出せば私を組み敷けるはずなのに、そうしないのは雪五朗の優しさか、はたまた私の反応をからかっているだけなのか。
結局、先に折れたのは私の方だった。
はぁ、とため息をついて口を開いた。
「いい加減にしてちょうだい。……貴方、無口なのは昔から変わらないのね」
私の言葉に雪五朗は酷く驚いたようだった。
「俺のことを知っていたのか?」
戸惑った様子の彼に私は続けた。
「高校時代、無口の雪五郎って呼ばれていたでしょ」
「俺のことを覚えていたのか。……というより、え? そんな呼び名があったのか……」
思いのほか、しょんもりとした雪五朗に愛おしさが込み上げてきた。
それからふと不安を覚える。
彼に愛されたいなんて願ったりはしない。
だけど、ほんの少し、ほんの少しだけ“この人に嫌われたくないな”って思ってしまったんだ。
だから確認せずにはいられなかった。
「こんな女でいいの?」
ぽろりと零れた弱気な言葉に驚いて、それから覚悟を決めた。
無論、嫌われたところで既成事実は出来てしまったわけだし、特に何も変わらない。
ただ、私の心が蝕まれるだけだ。
「私ね。何をせずとも愛される花たちが憎らしい時があったの」
呆れたような笑顔を見せた。
雪五朗の反応が怖くて、彼の目を見られない。
私は言い切ってしまうことにした。
「吃驚でしょう? 真正なお嬢様だなんだって言われて生きてきたけれど、蓋を開けてみればそんな女なのよ」
障子の向こう側に青白い三日月が浮かんでいて、いつの間にか世界に夜が訪れていたのだった。
倦怠感に包まれた私の身体を雪五朗が後ろから抱きしめている。
ぼんやりしているとぐぅーっとお腹が鳴って、夕飯を食べていないことを思い出した。
余計なことに、お腹が空いてしまうほどの行動をしていたことまでも連想してしまい、一人頬を染めた。
いや、そうよね。
新婚だもの、何も悪いことをしたわけじゃないわ。
堂々としていればいいのよ。そう、堂々と……。
言い聞かせる言葉と反対に、私は赤くなった顔を両手で覆った。
雪五朗と一緒の寝室にいる恥ずかしさに耐えられず、私は自らの空腹を言い訳に彼の腕からそっと抜け出そうとする。
だが、起き上がろうとしたそのとき逆方向に身体が引き寄せられる。
くるりと反転した私は、漆黒の目とかち合った。
「なっ、……起きていたのね」
「あぁ」
寝ぼけ眼の雪五朗はどこか愁いを帯びていて艶やかだった。
その色っぽさに呆けているうちに、彼の唇が私の額に当てられる。
所謂でこちゅうという行為である。
暫し無言の時間が続き、布団の下で攻防戦が繰り広げられた。
抜け出したい私と、それを阻止する雪五朗。
彼の指が一瞬の隙をついてネグリジェの中に潜り込もうとするので、その度に私はその手を叩いた。
本気を出せば私を組み敷けるはずなのに、そうしないのは雪五朗の優しさか、はたまた私の反応をからかっているだけなのか。
結局、先に折れたのは私の方だった。
はぁ、とため息をついて口を開いた。
「いい加減にしてちょうだい。……貴方、無口なのは昔から変わらないのね」
私の言葉に雪五朗は酷く驚いたようだった。
「俺のことを知っていたのか?」
戸惑った様子の彼に私は続けた。
「高校時代、無口の雪五郎って呼ばれていたでしょ」
「俺のことを覚えていたのか。……というより、え? そんな呼び名があったのか……」
思いのほか、しょんもりとした雪五朗に愛おしさが込み上げてきた。
それからふと不安を覚える。
彼に愛されたいなんて願ったりはしない。
だけど、ほんの少し、ほんの少しだけ“この人に嫌われたくないな”って思ってしまったんだ。
だから確認せずにはいられなかった。
「こんな女でいいの?」
ぽろりと零れた弱気な言葉に驚いて、それから覚悟を決めた。
無論、嫌われたところで既成事実は出来てしまったわけだし、特に何も変わらない。
ただ、私の心が蝕まれるだけだ。
「私ね。何をせずとも愛される花たちが憎らしい時があったの」
呆れたような笑顔を見せた。
雪五朗の反応が怖くて、彼の目を見られない。
私は言い切ってしまうことにした。
「吃驚でしょう? 真正なお嬢様だなんだって言われて生きてきたけれど、蓋を開けてみればそんな女なのよ」