美しき禁断の果実
公園内には梅の木が植えられていた。
真っ白で小さな花弁がいじらしい。

故に私はそれを手折りたくなるのだ。

誰からも愛されるようなか弱い儚げな花弁など、私の前には要らないのよ。

指を添え、少し力を込めるだけで呆気なく梅の枝は折れる。
一枝の花は手折られてもなお、美しく咲いていた。

その堂々たる花弁にすら私は憤りを感じる。
いつかは枯れると理解していても、それが今この瞬間でないことに苛立つのだ。

まるで傷付けられていないかのように振る舞っているその姿が、婚約者を寝取っていった平凡な妹に、ほんの少しだけ似ていて。

気がつけば私は梅の花をぐしゃりと握りしめていた。

「梅の花に何か恨みでも?」

そのとき、背後から聞こえた声に私はぴたりと動きを止めた。
出来る限りすました顔に見えるような笑みを浮かべから、私はゆったりと後ろを振り返る。

案の定、そこには先程会ったばかりの許嫁がいた。
将来の旦那様からは何の感情も読み取れず、彼が私の乱暴な愚行のことをどう考えているのかさっぱり見当もつかなかった。

「いいえ、微塵も」

私の言葉に雪五朗の眉が僅かにぴくりと動くのが見えた。
彼がほとんど初めて表現らしきものをしたことに私の好奇心が頭をもたげた。

もっと感情を揺さぶってみたいーー。

少しだけ不満そうに眉を寄せた雪五朗が口を開く。

「その梅の木はここで遊ぶ子どもたちのためのものだ」

「まぁ、知らなかったわ」

私は不用意に上がった口角を隠すように、唇に手を当てた。

仕方がないわ。
だって彼、怒ったドーベルマンみたいな唸り声を出しているもの。
そんなのってまるで、私の行動に不愉快を感じているみたいではないかしら。

だから気付かなかったのだ。
私の薄ら笑いを目敏く見つけた雪五朗の瞳が、何やら不穏な色にきらりと光った瞬間に。

「知らなかったで許されると思うのか?」

私は梅の枝をふらりと揺らして笑う。
潰れた花弁がひとひら、舞い降りていった。

「ではどうしろとおっしゃるの?もう花を潰してしまったわっ……んぅ?!」

肩を竦めて梅の枝から雪五朗に眼差しを向けた途端、ぐいっと顎を持ち上げられ、彼の唇が私のそれを塞いだ。
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