帰り道、きみの近くに誰かいる
※ ※ ※
ーー「すべて、事件のことを教えてください」
私は先輩に伝えた。
緊張して声も震えていた。
だけど先輩はちゃんと聞き取ってくれた。
少しの会話だけでも、彼はすべてを読み取ってくれているようだった。
だけど、私はその場から逃げるように立ち去った。
本当は事件に関わっていた生徒は先輩ではないという期待もあった。
同姓同名で別人のキヨミヤレン。
今話している清宮廉とは全くの無関係で、事件のことは関係なく自分に近づいてくれた。そして仲良くなれた。
そう思いたかった。
だけど、先輩は何も否定をしてこなかった。
きっと、間違えない。
彼は事件に関わっていたのだ。
あんなに必死で伝えた過去は、彼には最初から知っている事だった。
違うよ。
いつも変わらない笑顔で否定をしてほしかった。
だけど、その日、先輩から連絡が来ることはなかった。
※ ※ ※
次の日の朝、携帯を見ると着信履歴が5件もあり、全部夜中の時間にかかってきていた。もう既に眠っていた時間である。何通かメールも来ていた。その内容は感情のままに打ったかのような内容だった。すべて神谷からの連絡だった。
※
『何も関係ない僕と母親が事件に巻き込まれている間に、君はなぜそんなに呑気なのか。理解ができない。それも君は被害者なのに、事件のことは知りたくないのか?腹立つことはないのか?納得ができない』
※
『僕はもう1人の生徒について探そうと思う。君には協力してもらいたいが、そこまであの事件に興味はなさそうだな。自分の親が被害にあっというのに。信じられない。ちゃんと協力しろ』
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『そもそも君の父親も非があったのではないか?あの日、兄貴に対して酷い態度を取った。だから兄貴は反抗をして刺してしまった。きっと、君の父が兄貴を怒らせたんだ』
着信5件も同じようなことを言うつもりだったのか。神谷は何に対して恨んでいるのか、憎む対象は何なのか、何もメールから伝わってこなかった。
きっと神谷本人も分からないのだろう。この苦しみをどこにぶつけたらいいのか。
今はとにかく、被害者である私に対して投げやりにぶつけてくる。
神谷の言うことに反抗しようがなかった。
度重なる連絡は、もはやストーカー行為に近いものだった。何も返事をせずに携帯を閉じた。
いろいろ考えても心は落ち着かないまま学校に向かった。
毎日歩いている通学路の景色さえ、切なく感じた。この道は1人きりだと、学校と家の距離は遠く感じる。誰かが隣にいるだけで全然違う。
学校に着き、門を通り過ぎると玄関に向かった。向かう途中に違和感のある光景があった。
学校の入り口で、合わさるはずのない2人の顔が向かい合って話をしていた。
その驚きの光景に、心臓が凍えるような思いがした。
1人は神谷で、もう1人は桑田さん。
2人が一緒にいる。なぜ?その場で足を竦む。
遠くからその様子を見ていた。
若干、桑田さんが周りを見渡し、困った様子が伺える。2人が親密であるような雰囲気でもない。
もしかして神谷はあの事件のことを調べようとしているのではないかと思った。
桑田さんは先輩と同じ幼馴染であり中学校も一緒と聞いていた。
ーーたしか、成城中学校。
神谷は、事件に関わった私の父と中学生が成城中学校に通っていたことを知ってるから、同じ出身校の人に聞き回っているんだ。
だから桑田さんにも近づいているのかもしれない。そう思った。