帰り道、きみの近くに誰かいる

※ ※ ※


昼休憩、自分の席に座って窓の外を眺めていた。するとクラスメイトから声をかけられ見上げるとそこには桑田さんがいた。




「西野さん、廉くんから伝言があるんだけど」


そう言った桑田さんは少し不機嫌そうだった。

先輩からの伝言。心臓が大きく鳴った。



「用事があるって。メッセージも送ったって言ってたけど、見てない?」

「え…」

慌てて携帯を見る。



《今日、前みたいに夜に会いに行っていい?そこで話したい》



先輩からのメッセージが入っていた。

そのメッセージを見ていると「じゃあ、それだけ」と言って去ろうとする桑田さんを、慌てて呼び止めた。



「ちょっと…。聞きたいことあるんだけど」



桑田さんは怪訝そうな顔でこっちを振り向いた。教室では話しづらい為、2人で廊下の外に出る。

そこで今日のことを問い出そうとした。なぜ、神谷といたのか。彼女はこう答えた。



「前からあの人、私が成城中学校のことを知ってて尋ねてくるの。昔のことを教えてくれって」


私の質問に面倒くさそうに答える。やはり、神谷はあの事件のことを調べようとして桑田さんに近づいていた。どうしよう、神谷と先輩との距離が近い。


「昔のことって…もしかして隣町の事件のこと?」

私が単刀直入に言うと、桑田さんは目を大きく見開いた。彼女の整えられた眉毛が上がる。



「西野さん、どこまで知ってるの?」


彼女は驚いた様子だが、素直に本当のことを言おうと思った。


「清宮先輩が関わっていたことを知ってる」


更に驚いた表情をする桑田さん。


「なんで知ってるの?廉くんから聞いたの?」


私は首を横に振った。説明をすれば話は長くなる。

「今日話しかけてきた男の人って何を言ってたの?」


桑田さんはまだ納得できない顔をしていたが、事件を知っている私に対しては話をしていいと思ったのか、言葉を紡ぐように話す。


「あの事件について知ってるか?ってそれだけ…。怪しい人だったし、廉くんのことだから喋らなかったけど。今日だけじゃない。前にも話しかけられたの。今日は本当に何でもいいから教えてほしいって。…あの人は誰なの?」


やはり、そうだったのか。桑田さんが神谷に、先輩のことを話してないのが唯一の救いだった。


だけど、あることに気づく。

「…ねえ、もしかしてこの事、先輩に言った?」

嫌な予感がする。

「廉くんには一応。こんなこと話しかけられたんだけどって。廉くん、考え込んでた」



どうしよう。手に汗が滲んできた。

数日前、2人で夜空を見上げた日、私は先輩に話したことがある。


犯人の弟に会った、と。

先輩は何度も気をつけてと心配をしてくれた。



「先輩、何て言ってたの」


「何てって…。私も話しかけられた男が誰なのか知らなかったけど、廉くんと一緒にいた時、偶然見かけたことがあったから、あの人だって教えた。同じ一年生だったけど違うクラスの子だったから全然知らなかったけど」


「教えたの…?」


「教えたよ。だって、一応言ったほうがいいと思って。だって、怪しいでしょ?いきなり、あの事件のこと聞いてくるなんて、注意したほうがいいよって廉くんに教えた」


桑田さんが忠告のために先輩に神谷の存在を伝えていた。

だけど、なぜか嫌な予感がした。先輩と神谷の互いの存在を知ったとして、2人の距離が近づくのではないかと思った。


神谷は先輩の存在を知ってしまったら、何をするか分からない。


昨日2人は玄関で出会したけど、お互いもしかして、何か勘づいていないのか。

もし、何かに気づいていたら。



「ねえ、西野さん。大丈夫?顔色悪いけど」

桑田さんに声をかけられて、自分の体調が悪くなっていることに気づいた。先輩が続けて言う。


「あなたがなぜ、廉くんの過去を知っているのか。どこまで廉くんのことを知ってるのか、それは分からないけど…廉くんはまだ病気が治ってないところがあるの。だから、無理してほしくない。あの男が過去を探ってくるのは、廉くんにとって重荷になる」


私はある言葉に反応した。

「病気…?」


思わず声に出して、桑田さんに問いかけた。
桑田さんはあからさまに言ってしまった、と後悔の表情を浮かべる。

「知らなかったんだ。何も聞かないことにしといて」

「病気って、何のこと」

私はまだ先輩のこと、何も知らない。だけど、病気と聞いてさすがに混乱した。たった二文字が重く感じた。


「私からは言えない。気になるなら本人から聞いて。そんな大事なこと、他人の私からは言えない」

正論だ。桑田さんは真っ直ぐに言う。



「きっと、廉くんは話すよ。あなたになら。廉くんがあなたに近寄るのは今でも何でなのか疑問ではあるけど、何かに惹かれたのよ」

そう言った桑田さんは、少し寂しそうな笑みを浮かべていた。



「幼馴染の私にも言えないようなことを、あなたにならきっと」

相手を見て、互いに向き合って話をしなければ本当に伝えたいことは伝わらない。桑田さんにそう言われ、改めて感じた。


何も知らない。何も話せてない。疑うよりも、信用したい。彼とすべてを話したい。
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