虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
さようなら、部長
田村部長の怒声を、高見澤さんは嘲るような言葉で、
「図星を突かれて腹が立ったか? 人間、痛い事言われるほど腹が立つからな」
煽った上に、さらに言葉を重ねた。
「それにしても今の言葉、言ってて恥ずかしくないのか田村さん。プロジェクトの真の発案者、早川さんの前で」
その言葉に釣られるように、田村部長は私を見た。
「早川、くん──」
田村部長と視線が合って、私は思わず後ずさった。
目は闇の獣のように輝いているのに、口元だけが笑っている。
背筋が凍り付いた。
「早川くん。私は今でもきみを惜しいと思っているんだよ──」
田村部長の口から優しげな言葉が漏れてくる。でもそれは、触れる手を灼いてしまうような、冷たさと毒気をはらんでいた。
「早川くん。きみほど優秀な女子社員はいなかった。きみは誰よりも真面目で、誰よりも努力家だった」
私に語りかける田村部長の前に立ち塞がりながら、高見澤さんが軽く靴を鳴らした。
事前に打ち合せていた、『マインドコントロールに注意しろ』の合図だ。
篠原さんが、私の服の裾をぎゅっと掴む。
田村部長は、私に語りかけるのを止めない。
「でも早川くん。きみは誰よりも繊細で、傷付き易い心を持っていた」
「……」
「きみは迷っていたね。自分の進む先を掴みかねていた」
「……」
「思い出したまえ、早川くん。私の元にいて、君がどれだけ輝いていたかを。どれだけ充足していたかを」
「……」
「思い出したまえ。私の腕の中で、きみがどれだけ美しく輝いていたかを」
闇の中からまとわり付くように、田村部長の声が響く。
篠原さんが「先輩──」と囁いて、私の服の裾を持つ手に力を込めた。
「早川くん。今からでも遅くない、私の元に戻るんだ。私なら、きみに心の充足と、活躍の場を与えられる。息が詰まるほどの快楽も、与えてあげよう」
田村部長の声が耳の奥でこだまするようで、頭がくらくらした。