虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
でも──。
「おっしゃる通りです、田村部長」
私は言った。
「私は迷いを抱えていました。不安や寂しさを周囲に悟られないないように、仕事に打ち込んで、それでもいつも満たされない思いを抱えていました」
痛い、自分の心の傷。
できれば目をつぶってやり過ごしたい、自分の弱さ。
でも──。
「部長。あなたはそんな私の心の隙間に入り込んで、私を満たしました。偽りの支配で」
私は息を止めて、正面から田村部長を見た。
そして、言った。
「田村部長。もう私は、偽りの支配には屈しません。この先あなたがどれだけ耳触りの良い言葉を連ねても、あなたの言葉が私の胸に届くことはありません。私は──」
私はいつの間にか、胸元のブルーダイヤのペンダントを、左手でしっかりと握り締めていた。
「本当に私を愛してくれる人と、めぐり逢うことができたから」
「くっ」と口元を歪ませる田村部長に、高見澤さんはまた挑発するような口ぶりで、
「田村さん。真実の愛を知ったお姫さまに、もうあんたの魔法は効かないぜ。じゃあ今度はこちらの番だな」
そして複雑な数字や記号の並びを、すらすらと暗証し始めた。
暗唱を耳にした田村部長が、うろたえた。
「き、貴様、なぜそのコードを……?」
「こちらの呪文は効いたみたいだな」
高見澤さんが、精悍な口元を緩ませる。
「そう、山井商事の裏サーバーへのアクセスコードだ。このをコードを打ち込めば、発注伝票も納入通知書も、自由自在に書き換えられるんだってな」
そして言った。
「でもさ、思うわけだよ。そんな大掛かりな仕掛けを、ただ自分の欲望を満たすためにだとか、目障りな社員を蹴落とすためだけに、歴代の執行部が保持してくるものだろうかって」
「……」
「話を聞いただけでピンときたのさ。これはヤバい金の流れを隠すための、二重帳簿用のアクセスコードだって」
高見澤さんは嘲笑った。
「そうまでして何を隠していたんだ? 田村さん」
社員だった私や篠原さんですら知らなかった、会社の暗部。
田村部長は一言も発しないまま、ものすごい形相で私たちを睨みつけていた。