虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
紫月さんは軽く一礼すると、口を開いた。
「田村部長。今までのあなたとこちらの高見澤のやり取り、全て当方でモニターして記録させていただきました。またそれとは別に、御社の執行部のお方々には、リアルタイムで画像と音声を配信させていただいております」
絶句する田村部長を眺めながら、紫月さんはスマホを取り出して、通話口に大きな声を出した。
「そうですわね、高木社長」
スピーカー設定のスマホから、山井商事の高木社長の、呻くような声が流れてくる。
『田村っ、貴様……!』
顔面蒼白の田村部長にむけ、紫月さんは判決文を読み上げる裁判官のように、
「今回の件を、我が御倉グループは大変遺憾としています。そして私は御倉グループを代表して、以下のことを高木社長にお伝えしました」
淡々とした口調ながら、紫月さんの話す内容は衝撃的だった。
「今回の件の原因究明と関係者の処罰、そして再発防止の取り組みが確認されるまで、御倉グループに所属する全ての企業は、山井商事との全ての取引を停止いたします。既に実行中の案件についても即時停止、それにより生じる全ての損害及び不利益は、全て山井商事の責に帰するものとして、あらためて損害賠償の対象とさせていただきます」
言い換えれば、日本最大の企業グループによる、山井商事への死刑宣告だった。
『し、紫月さま、どうかお慈悲を──!』
高木社長の悲鳴が、スピーカーから流れてくる。
『田村は即刻解任します。私どもで告訴いたします。ですからどうか、寛大なご処置を── !』
「残念だけど手遅れですわ、高木社長」
紫月さんは冷淡に突き放した。
「今回の件、お祖父様も大変にご立腹です。経済界全体で政治と金の問題をあらためようとしている最中に、山井は何を考えているのか、と」
『そ、そんな……』
「悪い事は言いません。自主廃業なさい、高木社長。そして役員全員で罪に服せば、残る事業と従業員は全て、我が御倉商事が責任を持って引き受けます」
一人の部長の歪んだ野望のために、一つの会社が今、消滅しようとしている。
私は息を呑むしか無かった。