虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
私は、倉庫の床に膝と手をついている田村部長に、静かに近付いた。
「田村部長。こんなことになってしまって、私も残念です」
私の声が届いているのか、田村部長は床に手をついたまま、こちらを見ようとしない。
「田村部長。私がここに来た理由は、あなたを破滅させるためではありませんでした。ただ、お伝えしたかったんです。私は、本当に私を愛してくれる人と、めぐり逢えたと」
私の話は一方通行で、何の益もない行為なのかも知れない。
それでも、田村部長にきちんと言葉にして、伝えておかなければならなかった。
私自身のために。
「田村部長。私はあなたに騙され、全てを奪われました。でも私は、あなたを恐れても、あなたを憎んではいませんでした」
「……」
「あなたとの関係は、偽りの夢でした。それでも確かに、あの頃の私の夢だったんです。あなたを愛して、あなたに愛されていると信じて、私は生きていたんです」
「……」
「恨みごとをぶつけている気はありません。謝罪を求めているのでもありません」
私は田村部長の少しグレイがかった髪を見つめてから、言った。
「ただ、お伝えしたかったんです。私はあなたから受けた傷と記憶を抱いて、新しい愛に進むことを。自分の意思で愛して、自分の意思で愛されて、もう二度と誰かの人形になどならない、と」
「……」
「さようなら、田村部長──」
私はそれだけ伝えて、元の場所に戻った。
戻りしな、高見澤さんが声をかけてくれた。
「気が済んだかい? 早川さん」
「……はい」
「では、これで一件落着だな」
するとそれまで、隠れるように隅にいた黒木さんが、紫月さんの前に立った。
「御倉紫月さんですね、山井商事の黒木芽依亜です」
黒木さんは紫月さんの厳しい表情を見て、一瞬たじろいだけど、すぐに言葉を繋いだ。
「山井商事が無くなっても、私はあなたの会社に引き取っていただけるんですよね。御倉商事で、引き続きリチウムプロジェクトを担当させていただけるんですよね」
「なんの話? 私は何も聞いていないわよ」
すると高見澤さんが、わざとらしく頭をかいて、
「あー、ごめんごめん。そういやそんな話もあったっけ。紫月に言うの忘れてたわ」
ふざけるように、両手をひらひらさせた。