虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「あ、あの……」
紫月さんは九条くんの婚約者として、ミドルスクールの頃からずっと彼のことを待ち続けていた。
こんな時、どうするのが正解なんだろう。
「気にしないで。いつまでも引きずるなんて私の性に合わないし、正臣とは婚約者で無くなっても、彼が御倉の大切なビジネスパートナーであることに変わりはないから」
眩しい紫月さんの笑顔は、私の心の翳さえ消し去ってしまう。
「それにしても、早川さん」
紫月さんは、床に手をついたままの田村部長を一瞥して、
「お人好しと言うか何と言うか、あんな男によくあんな言葉がかけられたわね」
「済み、ません……」
「勘違いしないで、褒めているんだから」
紫月さんは、また明るい笑顔をみせた。
「あなたのそう言うところ、私、嫌いじゃないのよ」
「ありがとうございます、紫月さん」
私もこの素敵な人に、心からの笑顔を見せた。
「私も紫月さんが大好きです」
真っ赤になる紫月さんに、高見澤さんがぷっと吹き出した。
「……直人、聞こえてるわよ」
「おいおい、勘弁してくれよ。おまえがそんなふうに脅すたびに、俺は榊の旦那にものすごい顔で睨みつけられるんだから」
「高見澤さまが紫月さまを挑発しなければ宜しいのです。ご配慮くださいませ」
フラットな榊さんの口調に、皆が吹き出した。
「先輩」
篠原さんが、私の服の袖を引いた。
「先輩のお知り合いって、すごい方ばかりなんですね」
「私の知り合いじゃなくてね、明日美ちゃん」
私は九条くんの優しい笑顔を思い浮かべながら、言った。
「私のお友だちの、お知り合いなの」
篠原さんは、エヘへ、と笑って、
「先輩が幸せそうで、私も嬉しいです」
そう言って、可愛らしい笑顔を見せてくれた。
と──。
「おお、そうだ」
急に高見澤さんが呟くと、田村部長のところに歩み寄って、いきなり胸倉を掴んで引きずり起こした。
皆が呆気に取られるなか、高見澤さんは無言で田村部長の頬を殴りつけた。
大柄な部長の身体が、仰向けに倉庫の床に叩きつけられる。
「九条からの依頼だ。俺の代わりに、一発ぶん殴っておいてくれって」
複数のパトカーのサイレンが倉庫の前で止まって、赤色灯が照らす中を、私服刑事を先頭に警官隊が入ってくる。
事件が終わった瞬間だった。