虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
海を渡る風

楽園の島


 警官隊に連行される田村部長や黒木さんたちを見送ってから、私と篠原さんは、あらためて頭を下げた。

「紫月さん、榊さん、高見澤さん。他の皆さんも、本当にありがとうございました」

「いいのよ、早川さん」

 紫月さんは、明るく応えた。

「先ほども言ったけど、これは正臣にお願いされたことだし、それに政府の援助金を闇献金に回して癒着をはかるような卑怯者、私としても許せないしね」 

「まあ、ここまで来るとは俺も思わなかったがな」

 高見澤さんが言った。

「奴が早めにギブアップしてくれれば、役員総入れ替えくらいで済まして、山井商事自体を消し去る気は無かったんだ。でも、あそこまで往生際が悪いと──」

「致し方ないわね。お祖父様が激怒されたのは事実ですし」

 紫月さんが言葉の後を受けた。

 その向こうで榊さんが、連れてきたスーツ姿の男性たちに何か指示を出していて、やがてスーツの男性たちは榊さんに一礼して、倉庫から出て行った。

「紫月さん、あの方たちは──?」

「『黒蜥蜴』よ」

「くろ、とかげ?」

 私の声に、高見澤さんが説明してくれた。

「御倉家の私設警護隊だ。俺も実際に目にするのは初めてだが」

 高見澤さんは、軽く腕組みをした。

「江戸の昔から、奴等はああやって御倉本家の人間を護っているんだ。その実力は、軍隊の特殊部隊にも匹敵するって噂だ」

 そして、紫月さんに視線を戻して言った。

「それにしても、よく『黒蜥蜴』を動かせたな。奴等に指示できるのは御倉の当主だけのはずだろう?」

「何も問題はありません、高見澤さま」

 戻ってきた榊さんが、言葉を挟んだ。

「今の『黒蜥蜴』の隊長は私ですから。そして私には、紫月さまのご指示が全てです」

 高見澤さんは、くわばらくわばら、と肩をすくめた。

「皆さん、これからどうなさるんですか?」

 私は訊いてみた。

「私はこの件の後始末をしなければならないから、一旦会社に戻るわ」
 
 紫月さんが言った。

「俺はホテルに戻って、向こうに帰る準備をするよ」 

 高見澤さんの言葉に、篠原さんが反応した。

「え……、行っちゃうんですか?」

(明日美ちゃん──)

 私はとっさに提案してみた。

「皆さんお忙しいでしょうけど、今しばらくお付き合いいただけないでしょうか。せめてものお礼に、ご夕食をご馳走したいんです」
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