虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
そして九条くんに招き入れられたリビングで、私たちは息を呑んだ。
一面、大きなガラス張り。
そしてそのガラスの向こうには、マンハッタンの輝く夜景が広がっていた。
ニューヨーク、午前0時。
この世界一賑やかで眩しい街は、眠っていても、煌めく光を放ち続けている。
昼の雑踏が遠ざかった分だけ、かえって街の輝きは、闇をまとって深みを増していたのかも知れない。
どこかでパトカーのサイレンが、けたたましく近付き、そして遠ざかって行く。
「軽く何か作るから、その辺に腰掛けてて」
ぽかんと口をあけたままの私と真理を置き去りに、九条くんはキッチンに消えて、10分ほどでまた戻ってきた。
「あり合わせで作ったけど……」
九条くんが捧げ持って来たのは、洋風のトレイではなくて和盆。それにお茶碗が二つとお櫃、そして土瓶が乗っていた。
「まあ兄、これって……?」
意外そうな顔をする真理に、九条くんは、
「うん、お茶漬け。でも、ただのお茶漬けじゃないよ」
そう言って、慣れた手付きで暖かなご飯をよそい、その上に、
「カルパッチョにするつもりで買っておいた鯛があったから、胡麻だれに和えて鯛茶漬け。出汁も鯛のアラから取ったよ」
胡麻だれをまとった鯛の刺身を敷いて、お出汁を掛けて、目の前で極上の鯛茶漬けを作ってくれた。
マンハッタン5番街の、地上250メートルで食べる鯛茶漬け。
贅沢ってこういうことかなって、ふと思った。