虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
ニューヨークに戻ってまず最初にしたことは、ハーレム地区に住む真理を呼び出して、婚約の話を伝えることだった。
「あら……まあ」
待ち合わせたセントラルパーク沿いの小さなカフェで、真理は目を丸くしてそう言った。
「理恵。奥手なように見えて、やるときはやるのね」
そして少し人の悪そうな顔をして、
「ところで、まあ兄はどうだった? 今度こそ抱いてもらえたんでしょう?」
「……」
真っ赤になって羞じらう私に、真理は小声で「何照れてんのよ、バカ」と呟いて、レモネードのストローを吸った。
「まあ、でも、幸せになって欲しいのは本当よ」
真理はテーブルの上に手を置いて、私をじっと見つめた。
「理恵、ずっといい子でいようとしてたでしょう? 学校でも、会社でも。父さん母さんにも、心配かけないように無理してたよね」
「真理……」
「分かるよ。私たちは、まあ兄が引っ越さなくちゃならなくなった事情を見てきたから」
真理は目を閉じて、小さくため息をついた。
「あんなに素敵なまあ兄と瑠美おばさんが、何も悪いことをしていないのに、口さがない噂にさらされて、酷いいたずらまでされて」
「……」
「人の嫉みや妬み、世間の冷たさや無責任さを、私たちは見てしまった。自分がその的になりたくないと思うのも、当然だよね」
「……」
「理恵は人の目を恐れて、自分の本心を隠すようになってしまった。人に上手く甘えることもできなくて、恋愛下手になっちゃったよね」
私は目が覚めるような思いで、二つ下の妹を見つめた。奔放でお世辞にも内省的とは言えない真理が、そんなふうに私や周囲のことを見ていたなんて──。
真理は伏し目がちに、語り続ける。
「私は、そんな理恵が嫌いだった。好きとか嫌いとか、自分の想いを伝えるのにもためらって、ただいい子でいようとしている理恵に、イライラしていた」