虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
次の日の朝、洗面台で顔を洗ってから、私は意を決してスマホをタップした。
時間は7時、日本では夜の9時になる。
この時間なら父さんも母さんも自宅に戻っているはずだ。
こわばった顔でスマホを耳に当てる私を、九条くんが優しく微笑んで、見守ってくれている。
短い呼び出し音の後に、電話が繋がった。
「もしもし」
『もしもし、理恵ちゃん?』
お母さんの声だった。
『心配していたんだよ。元気?』
「うん、元気だよ。お父さんはいる?」
『いるよ、代わろうか』
通話口のむこうで、お母さんがお父さんを呼んでいる。
「違うの、二人に聞いてほしいの。だからお母さん、スピーカー設定にしてくれるかな?」
『スピー……カー?』
これを説明するのに、すったもんだで2分は費やした。
そして──。
「お父さん、お母さん、落ち着いて聞いてね。私──」
胸に手を当てて、深呼吸して、言った。
「私、婚約したの」
3秒ほどの沈黙があった。そして、
『理恵ちゃん! 婚約って?!』
『おいっ、父さんそんなこと聞いてないぞっ?!』
予想通り、パニックになってる……。
九条くんが笑って、通話を代わってくれた。
「おじさん、おばさん、お久ぶりです。覚えていらっしゃいますか? 昔、ご近所に住んでいました、九条です」
『えっ……?! まあくんっ?!』
ドタバタの私の両親に、九条くんは笑いながら、優しく語りかけてくれる。
「はい、九条の正臣です。突然のご報告になってしまい、申し訳ありません。僕は──」
九条くんは一旦言葉を区切って、そして私の両親に、こう告げてくれた。
「僕は、昔から理恵さんのことが好きでした。そしてこちらで、理恵さんに、結婚を申し込ませていただきました。つきましては、そちらにご挨拶にお伺いしたいのですが、お許しいただけますでしょうか──?」
九条くんが、結婚の申込みに、私の実家に来てくれる。
私は嬉しくて、嬉しすぎて、スマホで話している九条くんの背中に、抱きついた。