虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
帰郷
その月、九条くんは乗務スケジュールを全て国内線に組んで、私たちは日本に戻ってきた。
私も知らなかったのだけど、パイロットに国内線・国際線の種別はなくて、所持しているライセンスによって乗務できる距離が決まるのだそうだ。
長距離飛行が可能な機体のライセンスを所持していれば、その機体が就航している国際線に乗務することになるし、短距離路線用の機体のライセンスしか無ければ、国内線のフライトスケジュールがメインになる。
後は地理的な問題で、例えば短距離用の機体でも、博多〜釜山間や、札幌〜ウラジオストク間は立派な国際線の乗務になる。
私たちが日本に戻って来たのは、九条くんのお母さんの来日に備えて、東京を起点に行動するためだった。
でもその話を聞いて、ふと生じた疑問を、私は日本に向かう機中で九条くんに訊いてみた。
「九条くんは日本のエアラインパイロットなのに、どうしてニューヨークに住んでいるの?」
大日本航空の拠点空港は羽田・成田なのだから、当然首都圏に住んでいた方が都合がいいはず。実際、九条くんのお父さんの正隆おじさんは、そんな理由で私たちの街に住んでいたのだろう。
「うーん、理由はいろいろあるんだけど……」
九条くんは笑って言った。
「俺は学生時代がこちらだったし、実は大日本航空には中途入社なんだ。元はニューヨークの格安航空会社からスタートしたんだよ」
驚いてしまった。九条くんの学歴と成績なら、アメリカの大手の航空会社でも、望むままに入社できただろうに。
「どうして、そんな──?」
「早く機長になりたかったんだ。大手に入って自社養成コースでゆっくり練習するより、小さな機体でも、実際に乗客を乗せて空を飛びたかった」
「……」
「その関係で、大日本航空に入社してからも、日本とアメリカを結ぶ路線の交代要員や中継ぎ乗務で、飛行時間を稼いでいる。たまにこうやって日本に戻って、違う路線にも乗務するけどね」
パイロットの格は、年齢ではなくて飛行時間で決まるのだそうだ。それも、最新の大型機の乗務で得た飛行時間は、別格扱いなのだろう。
「俺は短距離の機体だけじゃなくて、長距離の機体のライセンスも持っているから、できるだけその機体で飛行時間を稼いで、早く機長に昇格したいんだよ」