虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
九条くんは軽く目尻を拭うと、微笑んだ。
「覚えていらっしゃいますか? 僕と母が、この街から引っ越していった日のことを」
九条くんは軽く目を閉じて、一瞬何かを思い浮かべるようにした後、また目を開いて語り始めた。
「あの日、街を出て行く僕と母を見送ってくれたのは、皆さんだけでした。父のパイロット仲間も、母のアテンダント時代の同僚も、僕の同級生も、誰も来なかった。皆に見捨てられたような僕と母を、皆さんだけが、変わらず気遣っていてくれたんです」
「……」
「あれから生活が安定するまで、いろいろなことがありました。心が挫けそうになったことも、一度や二度ではありません。だけど──」
九条くんはまた目を閉じて、そしてまた見開いて、言った。
「あの日、皆さんが僕らを見送ってくださったから、僕も母も、世間や運命を呪わずに済んだんです。この世の中には、何があっても自分たちを見捨てずにいてくれる、優しい人たちが確かにいるんだ、と」
「正臣くん……」
「僕の父は、帰って来ませんでした。でもあの日、理恵さんと真理さんと一緒に、涙を流しながら見送ってくれたお義父さんとお義母さんが、僕のもう一人の父と母になってくださったんです。皆さんが、いなければ──」
九条くんは一瞬言葉を詰まらせ、また目元を拭って、
「皆さんがいなければ、僕はとうに道を誤っていたでしょう。こうして父と同じ、パイロットになることも叶わなかったと思います」
九条くんは少し身体を引くと、畳に頭をすり付けるようにして、言った。
「僕たちの結婚をご承諾いただき、本当にありがとうございます。理恵さんと手を携えて、僕たちは必ず幸せになります」
そして身体を起こして、私のお父さんとお母さんを見つめて、こう言ってくれた。
「これで僕は本当に、お義父さんとお義母さんの息子になれます──」
九条くんは、泣いていた。
お父さんとお母さんも、目頭を抑えていた。
そして、私も──。
ありがとう、九条くん。
私だけじゃなくて、私のお父さんもお母さんも、こんなにも愛してくれて。
私、あなたとなら、間違いなく幸せになることができます──。