虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
それから夜遅くに至るまで、私の家は、ささやかな宴の場になった。
お父さんが奮発してお寿司の出前を頼んで、お母さんは「こんなもので恥ずかしいけど……」なんて言いながら、私の好物を台所で作り出して行ってくれた。
出前のお寿司とお母さんの手料理が並ぶと、座卓の上はいっぱいになってしまったけど、誰もそんなことは気にしない。
皆がうきうきして、何かしたくて仕方ない雰囲気だったから。
私の地元には慣わしがあって、それは、結婚の申込みに向かう男性は、お酒の一升瓶を下げて相手の女性の実家を訪うというものだ。
「一生かけて、娘さんを幸せにします」という、語呂合わせだったのかも知れない。
私の実家に向かう前、九条くんは私に、
「僕が何か用意するものがあるかな?」
と聞いてくれて、私もほとんど忘れかけていたこの慣わしを思い出させてくれた。
お寿司とお母さんの手料理をつまみながら、皆が九条くん持参のお酒を楽しんだ。
いくつかの銘柄から九条くんが選んでくれたその銘柄は、偶然お父さんのお気に入りで、お父さんとお母さんはいっそう喜んでくれた。
「正臣くん、今夜は泊まっていけるんだろう?」
「はい。今夜はお義父さんと飲み明かすつもりで参りました」
お父さんは大喜びで、酔いが回ると呂律の回らない声で、地元の民謡を歌い始めた──。
「お父さん、ご機嫌ね」
空になったお皿や寿司桶を下げながら、私とお母さんは台所で、小声で会話していた。
居間から、お父さんの調子っ外れの民謡が流れてくる。
「お父さん、ずっと息子がほしいって言っていたから、夢がかなったのよね」
お母さんは小さく笑った。
「早いものね。あなたと、あのまあくんがね……。歳を取るはずだわ」
「お母さん……」
「素敵な旦那さまね。幸せになるのよ、理恵」
「……はい」
また泣き出しそうになる私の肩を、お母さんは静かに抱いて、背中を優しく撫でてくれた。