虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「そんなときに、私は病床のイヴンに呼ばれたのです。イヴンはもう自分の力で立つことは叶いませんでしたが、会話することはできましたから」
人払いの上で、病床に招き入れられた瑠美おばさんが驚いたことには、横たわるイヴンの傍らに、シャキール家の年老いた当主、ハッサンがいたのだ。
「ハッサンとイヴンは、第四夫人にすぎない私に言いました。シャキールのために力を貸してほしい、と」
瑠美おばさんは、当時を思い出すように、軽く目を閉じた。
「なぜ、と問いかける私に、老いたハッサンは言いました。そなたとイヴンの間には子供がいないから、そなたが何かを言っても、それが子供への跡目の欲とは取られない。それに、イヴンの兄弟たちで、そなたの聡明さと公平さを知らない者はいない、と」
瑠美おばさんは、小さく微笑んだ。
「イヴンに嫁ぐときの、私との間に子供を作らないという約束が、こんな形を招くとは思いもよりませんでした。それに、妻妾たちとの争いを避けてきたことが、イヴンの兄弟たちに、聡明で慎み深い振る舞いと受け取られていたことも」
「……」
「私は戸惑ったけど、ハッサンとイヴンに答えました。私で良ければ、お手伝いいたします、と」
「人が良すぎるんだよ、母さんは」
九条くんはそう言ったけど、
「私としても、正臣が大人になるまでは、シャキールに力を持ったままでいてほしかったから。何かを得るためには、それに見合う何かをする必要があったのでしょうね」
瑠美おばさんはそう応えて、静かに微笑んだ。