虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 瑠美おばさんも九条くんもすごすぎる。   
 驚きを通り越して、なんだか怖くなってきてしまう。

「理恵ちゃん、いろいろ驚かせてしまってごめんなさいね」

 そんな私に、瑠美おばさんは柔らかな笑みを絶やさずに、語りかけてくれる。

「でも、正臣のお嫁さんになるあなたには知っておいて欲しかったの。正臣の個人資産、9,000億の内訳を」

 そうだ。天文学的な数字で考えるのを止めてしまっていたけど、九条くんはなんでそんなにお金持ちになったんだろう。シャキールがいくら気前がよくても、連れ子の九条くんにそこまでの資産を分け与えるとは思えない。

「私がシンガポールで事業を立ち上げるとき、正臣にも参加してもらったんです。いわゆる、共同出資者ね」

 瑠美おばさんの説明に、九条くんが言葉を重ねた。

「母さんがイヴンに嫁いだとき、俺にはシャキールから10億の現金が振り込まれていた。俺の進学費を援助する、それが母さんがイヴンに伝えた結婚の条件だったから」

「……」

「イヴンは約束を守ったのだけど、俺は言葉にできないくらい惨めな気持ちだった。母さんを売った見返りに、そのお金を得たような気がして。だからどうしても必要なもの以外、そのお金には手をつけないようにしていた。俺が働き始めたら、利息をつけてシャキールに叩き返してやるつもりだったんだ」

 拳を握りしめて悔しそうに呟く九条くんを、瑠美おばさんは優しく見つめて、言った。

「正臣に出資を持ちかけたのは、出資金を増やすというより、正臣をそんな思いから解き放ってあげたかったからです。正臣の口座にあのお金がある限り、正臣は過去の惨めな気持ちを思い返してしまう。でも私の会社の配当金なら、正臣は受け取ってくれると思って」

「そのとおりだよ、俺は救われた思いだった」

 九条くんは言った。

「俺は喜んで、シャキールから振り込まれた金を全て母さんに送って、母さんの会社の株に変えた。そうしたら──」

「会社が急拡大して、株の価値が一年で30倍に、そこからどんどん増え続けて、事業立ち上げから10年が過ぎた今では、ほぼ900倍になっていたんです」

 瑠美おばさんは変わらず、おとぎ話でもしているような口調で、そう言った。

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