虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
乱気流
職業、パイロット
それからも私たちのお話は続いたけど、ふいに瑠美おばさんが、
「正臣。悪いのだけど、しばらく席を外してくれないかしら。理恵ちゃんと女同士で、お話したいことがあるの」
そう言った。
「ひどいなあ、俺は除け者?」
九条くんはおどけて言ったけど、「ラウンジで待ってるよ」と笑って、部屋の外に出て行った。
その後ろ姿を見送ってから、瑠美おばさんは私に視線を戻した。
「理恵ちゃん、ごめんなさいね。正臣には内緒で、あなたにお願いしたいことがあるの」
なんだろう、どきどきする──。
「正臣と一緒に暮らして、何か感じませんか?」
「いえ……」
瑠美おばさんは何が言いたいのだろう。私は不安を感じて、少し姿勢を正した。
「正隆さんは──正臣の父親は、口数が少なくてストイックな人だったけど、もっと自然に生きていたわ。何より空を飛ぶことが好きで、パイロットであることに誇りを抱いていた」
「……」
「私には正臣が、自分を追い込み過ぎているように思えてならないの。空を飛ぶことよりも、機長に昇格することにこだわり過ぎている」
言われてみれば、九条くんはなんであんなに機長の肩書にこだわるのだろう。
お金持ちの九条くんには、待遇や給与の差なんて関係ないはずだ。
「以前九条くんは、パイロットは父さんと母さんと俺の、大切な夢なんだって言っていました」
私が日本に逃げ帰ろうとした夜、九条くんはそう言って、紫月さんに頭を下げたんだった。
「ええ、そうね。私も正隆さんも、正臣がパイロットになることを望んでいた」
瑠美おばさんの顔は、こころなしか青ざめて見えた。
「でもそれは、正臣がパイロットに憧れていたからです。正隆さんと同じように、正臣が誇りを持って空を飛ぶことを、親として望んでいたの。私には、今の正臣は、何かに引きずられて空を飛んでいるように思えてなりません」