虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 そう言われてみれば、最近の九条くんは少しおかしい。何か心ここにあらずで、ぼんやり考え事をしていることが多くなってきたような気がする。今回来日する機中でも、そんなことがあった。

 結婚の準備と仕事で、疲れ気味なんだと思っていたけど──。

「何かに引きずられて、と言われると、それは何なのでしょうか?」

 私の声も、少し震えていたかもしれない。

「……正臣はきっと、正隆さんの影を追い求めているのでしょう」

 瑠美おばさんは、ためらいがちに言った。

「正臣にとって、憧れの父親の遭難は、それほどショックで受け入れ難いことだったのだと思います」

「……」

 正隆おじさんのお葬式の日、正隆おじさんの遺影をまばたきもせずに見つめていた、九条くんの姿を思い出していた。

「正臣は無意識のうちに、自分を失われた父親の影に重ねようとしている、私にはそう思われてなりません。それが、正臣自身を律する力となっているうちはよかったのですが……」

「それだけでは、ないのですか?」

「正臣が、父親の遭難の真相を知ろうとしているのなら。自分と正隆さんをぴったりと重ねて、父親の遭難した状況を追体験しようとしているのなら──」

 息を、呑んだ。
 正隆おじさんはある日、大空に魅入られたように、飛び立ったまま帰って来なかった。
 九条くんがその軌跡を追い求めて生きているとしたら、その先にあるのは──。

「理恵ちゃん、お願いします」

 瑠美おばさんの目は、真剣だった。

「正臣を繋ぎ止めて。正臣に、地上に守らなければならないものがあることを、忘れさせないようにしていてほしいの。これは正臣のお嫁さんになってくれる、あなたにしかお願いできないことだから」
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